槍の穂の如くに輝き、
優しの素足に
さくさくと雪を蹴りつつ、
甲斐甲斐しくも穿きたるは
希臘《ギリシヤ》風の草鞋《サンダル》……

さて桔梗色や
淡紅《とき》色の
明るき衣《ころも》
霧よりも軽《かろ》く
膝を越えて
つつましやかに靡けば、
女達の身は半
浮ぶとぞ見ゆる。

この美くしき行列は
断えず歌へり。
その節は
かすかに軽《かろ》き
快き眩暈《めまひ》の中に
人と万物を誘ひ、
人には平和を、
木草には花を感ぜしむ。

女達は歌ひつつ行く。
「全世界を恋人とし、
いとし子として、
この温かき胸に抱《いだ》かん。
我等は愛の故郷《ふるさと》――
かの太陽より来りぬ」と。

おお、此処に、
踊りつつ、
歌ひつつ、
急ぐ女の一むれ……
女達の踏む所に
紅水晶の色の香水
光の如くに降り注ぎ、
雪の上に一すぢ
春の路は虹の如く
ほのぼのとして現れぬ。


  手の上の氷

日の堪へ難く暑きまゝ
しばらく筆をさし置きて、
我れは氷のかたまりを
載せて遊びぬ、手のひらに。

貧しき家の我子等は
未だ見ざりしその母の
この戯れを怪しみて、
我が前にしも集まりぬ。

可愛ゆき子等よ、こは母が

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