片頬《かたほ》の
ちらと覗く、それを見つれば。
〔無題〕
吝《やぶさ》かなれば言ひ遣りぬ、
永久の糧を送れと。
わが思ひつる如くにも
かの人は返事せず。
さて、ひと日過ぎ、二日《ふたひ》過ぎ、
何故《なにゆゑ》か、我は淋しき。
われは今みづから思ふ、
まことに恋に飢ゑつと。
〔無題〕
灰となれば淋しや、
薔薇を焼きしも、
榾《ほだ》を焼きしも、
みな一色《ひといろ》に薄白し。
されば、我は
薔薇に執せず、
榾に著せず、
唯だ求む、火となることを。
〔無題〕
悒欝の日がつづく、
わが思ひは暗し。
わが肩を圧《お》すは
重き錯誤の時。
身は醒めながら
悪夢の中に痩せて行く。
〔無題〕
月の出前の暗《やみ》にさへ
マニラ煙草《たばこ》の香《か》を嗅げば、
牡丹の花が前に咲き、
孔雀の鳥が舞ひ下《くだ》る。
まして、輪を描《か》く水色の
それの煙を眺むれば、
黄金《きん》のうすぎぬ軽々と
舞うて空ゆく身が見える。
我家
崖の上にも街、
崖の下にも街、
尺蠖虫《しやくとりむし》の如く
その間を這ふ細き小路《こうぢ》は
坑道よりも薄暗し。
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