空であらうか、君の名は。
――それに違ひがないわいな。
ひとり小声で喚ぶたびに、
沈んだ心も、
しんぞ高くなる。」

若い娘の言ふことに、
「また、あの燃える
お日様である、君が名は。
――さうではないと誰が言はう。
わたしの心を眩暈《めまひ》させ、
熱い吐息を
投げぬ間もない。」

若い娘の言ふことに、
「ああ、君が名を
喚ぶと云うても口の中《うち》。
――それを何うして君が知ろ。
自分の喚んで聴くばかり。
雲雀よ、雲雀、
音《ね》の高い雲雀。」


  〔無題〕

わたしの上を掠めて通らぬ雲ならば、
勝手に曇れ、
勝手に渦巻け、
わたしの足もとの遠い雲。
憎悪《ねたみ》の風に、
愚痴のしぶき雨、
嘲りの霞をまじへた、
低い、低い、通り雲。
わたしの上には、水色の
ひろい空、日輪の金《きん》の点。
けれど、なんだか気に掛る。
あれ、あの地平線に見えるのは、
不安な、黒い雲の羽。
それとも、わたしに二度帰る
空飛ぶ馬の持つ羽か。
けれど、なんだか気に掛る。


  〔無題〕

かかる文書くべき人と、
かの人の思ひ当る名、
もつが憎くけれ、いかにしてまし。
   ○
をりふしに美くしき
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