かなた》向く時
黄色にて、こなたの袖は
赤なりき。物がうち振る
袖の間《ま》にしら鳥の雛
その如き真白き影の
ふと見えぬ。黄色の袖と
緋の袖とやがて消し時
残りしはしら鳥の雛。
わが悩み早も残らず、
子よ、汝《なれ》を生みし夕の
うら若き母のまぼろし。
〔無題〕
しろがねの噴上の水に
仄かなる紫陽花《あぢさゐ》色の日影ちりぼふ。
あはれまた目にこそ浮べ、
若かりしわが盛り。
〔無題〕
君知るや、若き男よ、
日は晴れて静かなる海のかなしさ。
あはれまた君知るや、
三十路《みそぢ》を越えしをみなにも
涙しづかに流るゝを。
〔無題〕
夏のゆふべのおもしろさ。
夏のゆふべとなりぬれば
をみなの身こそうれしけれ。
湯槽《ゆぶね》を出でて端ぢかき
鏡の前にうづくまり
うすく我が刷く白粉《おしろい》の
いとよきかをり身に染《し》むよ。
帷子《かたびら》を着て団扇とり
二階の屋根の物干に
街の灯を見るおもしろさ。
〔無題〕
誰か知る、をみなの城を。
われはここにぞ立て籠る。
来り攻めよ、わがおほぎみ、
わが親、わが夫《せ》、わがはらから、
あはれ最後の戦ひに
わ
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