、
この台詞《せりふ》は音楽的である。
死の舞台の音羽屋より、
茶《ちやつ》けた鈴蘭は劣る。
服毒した鈴蘭を、
今も憐んで云ふ、
押花になつてくればよかつた。
王の栄華と耶蘇の比べた、
百合はアネモネだと云ふ説のやうに、
強烈な色に印度では咲く
沙羅双樹か知らぬが、
日本の山の白い沙羅は、
あてに、いみじく、脆い花である。
初めもはても高雅である。
鈴蘭を何故《なぜ》変死させますか。
幻の銀杏
みちのくの津軽の友の
云ひしこと、今ゆくりなく
思ひ出で、涙流るる。
悲しやと、さまで身に沁む
筋ならず聞きつることの、
年を経て思はるるかな。
おん寺の銀杏の大木、
色うつり、黄になる見れば、
朝夕になげかるるなり、
忌はしく、ゆゆしき冬の、
近づきし、こと疑ひも
なきためと、友は云ひてき。
今われが柱に倚りて
見るものに、青青《せいせい》たらぬ
木草なし、満潮《みちしほ》どきの
海鳴りのごと蝉の鳴く、
八月に怪しく見ゆれ、
みちのくの、板柳町
岩木川流るるあたり、
古りにたる某でらの
境内の片隅にして、
上向きに枝を皆上げ、
葉のいまだ厚き銀杏の
黄に変り、冬を示せる
立姿、かの
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