なき畫《ゑ》とは何れぞや
かくもいみじきつみ人の
ふるさとこそは君しるや
はたまた美《よき》をつみ人と
名づくる国へつれこしや誰
ひとぢ琴
もとより琴の緒にしあれど
うらみにひくき音もこもり
のろひにたかきおともせむ
ほそ緒しら木のひと柱《ぢ》琴
君ふれ給ふことなかれ
もとより恋の琴なれば
はだやはらかういだかれて
きくべき胸のささやきを
あこがるるともしたふとも
あゝ君ふるることなかれ
ひと緒の琴のわが恋は
ひとりの人にふれてより
やむよしもなき音《ね》は高う
恋にうらみにある時は
人をのろひにやすきひまなき
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明治三十六年
玉の小櫛
一
竜神うろくづ海のつかひ女《め》
肩さし手さし供奉《ぐぶ》しまつるは
管《すが》だたみ八つ皮だたみ八つ
数へおよばぬ帛《きぬ》うはだたみ
三重《みへ》の御輿《みこし》に花とこぼれて
赤《あけ》の御袴《みはかま》ましら大御衣《おほみぞ》
おん正身《さうじみ》のみじろぐたびに
小波わきて飾る黒髪
潮《うしほ》の音《ね》こそ四方《よも》には通へ
前《さき》追ふ魚が頭頭《かしらかしら》の
瑠璃の燭《ひ》を吹く風も有らねば
水晶に描《か》く是れや蒔絵か
大わだつみの底の御啓《いでまし》
時に金色《こんじき》上より曳きて
清《すゞ》しきひゞき最《いと》も※[#「王+倉」、9巻−318−下−7]々《さや/\》
星の七つぞ深く落ちくる
『美はしきもの悉《こと/″\》ねたむ
いまし竜神おそれ思はず
やまと美童《をぐな》の大皇子《おほみこ》奪《と》ると
相摸の海や走水《はしりみづ》の海
巨浪《おほなみ》ゆすりて詭計《たばか》りけりな
犠牲《にへ》に汝《な》が獲し弟橘《おとたちばな》は
光環《ひかりわ》かざす天《あめ》の幸姫《さちひめ》
清らの恋のいきみすだまよ
星の御座《みくら》へいざ疾く具せむ』
天《あめ》の使に御手《みて》とられまし
いま上げませるおん容顔《かんばせ》や
『相摸の小野《をぬ》に燃ゆる凶火《まがび》の
火中《ほなか》に立ちて問ひし君はも』
とぞ御涙《おんなみだ》この界《よ》に一つ
※[#「執/れっか」、9巻−319−上−8]く落ちぬと落ちぬと見しは
あなや刺櫛珠の刺櫛
櫛に尾を曳き星は昇りて
二
天ざかる鄙の上総に
藻をかづき勇魚《いさな》とる男《を》は
天がした今
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