を味わわなければならぬだろうか」
と尼君は言い、
「この人は死にそうですよ。加持をしてください」
と初瀬へ行った阿闍梨《あじゃり》へ頼んだ。
「だからむだな世話焼きをされるものだと言ったことだった」
この人はつぶやいたが、憑《つ》きもののために経を読んで祈っていた。僧都もそこへちょっと来て、
「どうかね。何がこうさせたかをよく物怪《もののけ》を懲らして言わせるがよい」
と言っていたが、女は弱々しく今にも消えていく命のように見えた。
「むずかしいらしい。思いがけぬ死穢《しえ》に触れることになって、われわれはここから出られなくなるだろうし、身分のある人らしく思われるから、死んでもそのまま捨てることはならないだろう。困ったことにかかり合ったものだ」
弟子たちはこんなことを言っているのである。
「まあ静かにしてください。人にこの人のことは言わないでくださいよ。めんどうが起こるといけませんから」
と口固めをしておいて、尼君は親の病よりもこの人をどんなにしても生かせたいということで夢中になり、親身の者のようにじっと添っていた。知らない人であったが、容貌《ようぼう》が非常に美しい人であっ
前へ
次へ
全93ページ中10ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング