いる時であれば必ずとめるに違いないと思うと、遂行が不可能になるのが残念に思われる浮舟の君は、
「ただ病気のためにそういたしましたようになりましては効力が少のうございましょう。私はかなり身体《からだ》の調子が悪いのでございますから、重態になりましたあとでは形式だけのことのようになるのが残念でございますから、無理なお願いではございますが今日《こんにち》に授戒をさせていただきとうございます」
 と言って、姫君は非常に泣いた。単純な僧の心にはこれがたまらず哀れに思われて、
「もう夜はだいぶふけたでしょう。山から下って来ることを、昔は何とも思わなかったものだが、年のいくにしたがって疲れがひどくなるものだから、休息をして御所へまいろうと私は思ったのだが、そんなにも早いことを望まれるのならさっそく戒を授けましょう」
 と言うのを聞いて浮舟はうれしくなった。鋏《はさみ》と櫛《くし》の箱の蓋《ふた》を僧都の前へ出すと、
「どこにいるかね、坊様たち。こちらへ来てくれ」
 僧都は弟子《でし》を呼んだ。はじめに宇治でこの人を発見した夜の阿闍梨《あじゃり》が二人とも来ていたので、それを座敷の中へ来させて、
「髪
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