少将は事実をそのまま告げようとはせずに、
「そのうちおわかりになるでしょう」
とだけ言っているのに対して、にわかに質問をしつこくするのも恥ずかしくなり、従者が、
「雨もやみました。日が暮れるでしょうから」
と促《うなが》す声のままに中将は出かけようとするのであった。縁側を少し離れた所に咲いた女郎花《おみなえし》を手に折って「何にほふらん」(女郎花人のもの言ひさがにくき世に)と口ずさんで立っていた。
「人から何とか言われるのをさすがに恐れておいでになるのですね」
などと古めかしい人らはそれをほめていた。
「ますますきれいにおなりになってりっぱだね。できることなら昔どおりの間柄になってつきあいたい」
と尼君も言っているのであった。
「藤《とう》中納言のお家《うち》へは始終通っておいでになると見せておいでになって、気に入った奥さんでないらしくてね、お父様のお邸《やしき》に暮らしておいでになることのほうが多いということだね」
こんな話も女房相手にしてから、浮舟へ、
「あなたはまだ私に隔て心を持っておいでになるのが恨めしくてなりませんよ。もう何事も宿命によるのだとあきらめておしまいにな
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