ょうおう》され、中将には蓮《はす》の実などを出した。そんな間食をしたりすることもここでは遠慮なくできる中将であったから、おりから俄雨《にわかあめ》の降り出したのにも出かけるのをとめられて尼君となおもしみじみとした話をかわしていた。娘を失ったことよりも情のこまやかであったこの婿君を家の人でなくしてしまったことが、より以上尼君に悲痛なことであって、娘はなぜ忘れ形見でも残していかなかったかとそれを歎いている心から、たまさかにこうして中将の訪問を受けるのは非常な悦《よろこ》びであったから、大事な秘密としていることもつい口へ出てしまうことになりそうであった。
浮舟の姫君は昔について尼君とは異なった悲しみを多く覚え、庭のほうをながめ入っている顔が非常に美しい。同じ白といってもただ白い一方でしかない、目に情けなく見える単衣《ひとえ》に、袴《はかま》も檜皮《ひはだ》色の尼の袴を作りなれたせいか黒ずんだ赤のを着けさせられていて、こんな物も昔着た物に似たところのないものであると姫君は思いながら、そのこわごわとしたのをそのまま着た姿もこの人だけには美しい感じに受け取れた。女房たちが、
「このごろはお亡《か
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