》や草も上手《じょうず》に作られてあった。
秋になると空の色も人の哀愁をそそるようになり、門前の田は稲を刈るころになって、田舎《いなか》らしい催し事をし、若い女は唄《うた》を高声に歌ってはうれしがっていた。引かれる鳴子の音もおもしろくて浮舟は常陸《ひたち》に住んだ秋が思い出されるのであった。同じ小野ではあるが夕霧の御息所《みやすどころ》のいた山荘などよりも奥で、山によりかかった家であったから、松影が深く庭に落ち、風の音も心細い思いをさせる所で、つれづれになってはだれも勤行ばかりをする仏前の声が寂しく心をぬらした。尼君は月の明るい夜などに琴を弾《ひ》いた。少将の尼という人は琵琶《びわ》を弾いて相手を勤めていた。
「音楽をなさいますか。でなくては退屈でしょう」
と尼君は姫君に言っていた。昔も母の行く国々へつれまわられていて、静かにそうしたものの稽古《けいこ》をする間もなかった自分は風雅なことの端も知らないで人となった、こんな年のいった人たちさえ音楽の道を楽しんでいるのを見るおりおりに浮舟《うきふね》の姫君はあわれな過去の自身が思い出されるのであった。そして何の信念も持ちえなかった自分で
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