って、その結果私に好意を持つことがおできにならぬならそうと言いきっていただきたいのです」
 こんなことをどれほど言っても答えのないのでくさくさした中将は、
「情けなさすぎます。この場所は人の繊細な感情を味わってくださるのに最も適した所ではありませんか。こんな扱いをしておいでになって何ともお思いにならないのですか」
 とあざけるようにも言い、

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「山里の秋の夜深き哀れをも物思ふ人は思ひこそ知れ
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 御自身の寂しいお心持ちからでも御同情はしてくだすっていいはずですが」
 と姫君へ取り次がせたのを伝えたあとで、少将が、
「尼奥様がおいでにならない時ですから、紛らしてお返しをしておいていただくこともできません。何とかお言いあそばさないではあまりに人間離れのした方と思われるでしょう」
 こう責めるために、

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うきものと思ひも知らで過ぐす身を物思ふ人と人は知りけり
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 と浮舟が返しともなく口へ上せたのを聞いて、少将が伝えるのを中将はうれしく聞いた。
「ほんの少しだけ近くへ出て来てください」
 と中将が言ったと言い、少将らは姫君の心を動かそうとするのであるが、姫君はこの人々を恨めしがっているばかりであった。
「あやしいほどにも御冷淡になさるではありませんか」
 と言いながら女房がまた忠告を試みにはいって来た時に、姫君はもう座にはいなくて、平生はかりにも行って見ることのなかった大尼君の室《へや》へはいって行っていた。少将がそれをあきれたように思って帰って来て客に告げると、
「こんな住居《すまい》におられる人というものは感情が人より細かくなって、恋愛に対してだけでなく一般的にも同情深くなっておられるのがほんとうだ。感じ方のあらあらしい人以上に冷たい扱いを私にされるではないか。これまでに恋の破局を見た方なのですか。そんなことでなく、ほかの理由があるのかね。この家《うち》にはいつまでおいでになるのですか」
 などと言って聞きたがる中将であったが、細かい事実を女房も話すはずはない。
「思いがけず奥様が初瀬《はせ》のお寺でお逢いになりまして、お話し合いになりました時、御縁続きであることがおわかりになりこちらへおいでになることにもなったのでございます」
 とだけ言っていた。
 浮舟の姫君はめんど
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