らとなさいますふうの見えますのはどうしたことでしょう」
 とも右近はなだめていた。この人たちも思い乱れているのである。乳母は得意になって染めたり裁ったりしていた。新しく来た童女のかわいい顔をしたのを姫君のそばへ呼んで、
「まあこんな人でもお慰めに御覧なさいましよ。いつもお気分がすぐれないようにお寝《やす》みになっていらっしゃるのは物怪《もののけ》などがおしあわせの道を妨げようとするのかもしれませんね」
 と言いながらも歎いていた。
 大将からはあの返した手紙に対して言ってくることもなくそのまま幾日かたった。右近が姫君をおどすために話した内舎人という者が山荘へ現われて来た。噂《うわさ》どおりに荒々しい武骨なふうの老人が、声まで宇治の内舎人らしいこわい声で、
「もののわかる女房衆にお話がしたい」
 と取り次がせたために、右近が出て行った。
「殿様からお召しがありましたので、今朝から京へまいって今が帰りです。いろいろと御用を仰せつけられましたついでに、こうしてここに奥様をお置きになっていらっしゃって、夜中でも夜明けでも御用には私らが宇治にいるのであるからと思召して、京のお邸から宿直の侍などは
前へ 次へ
全101ページ中85ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング