ら1字下げ]
人にこの歌をお話しになって笑ってはいけませんよ。
[#ここで字下げ終わり]
と書かれてあるだけであったが、いぶかしいと思った瞬間から姫君の胸はふさがってしまった。相手の言おうとしていることを知っているような返事を書くことも恥ずかしく、誤聞であろうと言いわけをするのもやましく思われて、手紙をもとのように巻き、
[#ここより1字下げ]
どこかほかへのお手紙かと存じます、身体《からだ》を悪くしていまして、今日は何も申し上げられません。
[#ここで字下げ終わり]
と書き添えて返した。
薫《かおる》はそれを見て、さすがに才気の見えることをする、あの人にこんなことができるとは思わなかったと思い、微笑をしているのは、どこまでも憎いというような気にはなっていないからであろう。
正面からではないが薫がほのめかして来たことで浮舟《うきふね》の煩悶はまたふえた。とうとう自分は恥さらしな女になってしまうのであろうといっそう悲しがっているところへ右近が来て、
「殿様のお手紙をなぜお返しになったのでございますか。縁起の悪いことでございますのに」
と言った。
「私に理由《わけ》のわからないこと
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