った時、自分は見るに忍びないつらさを味わうであろうと思い、捨てる気は起こらないで、どうするつもりかも見たく思い、家へ帰った。薫は手紙を宇治へ書いた。
大将は例の随身を使いに選び、自身で人のない時にそば近くへ呼んだ。
「時方朝臣は今でも仲信《なかのぶ》の家に通っているか」
「そうでございます」
「宇治へいつもその使いをやるのだね。零落をしていた女だから時方も恋をしていたことがあるかもしれないね」
と歎息をして見せ、
「人に見られないようにして行け、見られれば恥ずかしいよ」
と言った。時方が始終大将のことをいろいろと訊《き》きたがり、山荘の中のことを聞いていたのは、自身のためでなく他の方のためにしていたことであったに違いないし、大将もまたそれを隠そうとしているのであると、物なれた思いやりをして何とも問わず、薫も低い人間にくわしいことは知らせたくないと思っているのであった。
山荘では大将家からの使いが平生よりもたびたび来ることでも不安が覚えられる浮舟の君であった。手紙はただ、
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浪《なみ》こゆる頃《ころ》とも知らず末の松まつらんとのみ思ひけるかな
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