しようと薫はしていたのである。前駆を勤めさせる者も多く呼んでなかった。随身が取り次ぎを頼む人に、
「妙なことがあったものですから、よく調べてと思いましてただ今までかかりました」
と言っているのを片耳にはさみながら、乗車するために出て来た薫が、
「何かあったか」
と聞いた。取り次いだ人もいることであったから随身は黙ってかしこまってだけいた。様子のありそうなことであると見たが薫はこのまま出かけてしまった。
中宮《ちゅうぐう》がまた少し御病気でおありになるということで宮達も皆集まって来ておいでになった。高官たちもたくさんまいっていて騒いでいたがたいしたことはおありにならなかった。内記は太政官の吏員であったから、役向きのことが忙しかったのかおそくなって出て来た。そして宇治の返事の来たのを宮に、台盤所《だいばんどころ》へ来ておいでになって戸口へお呼びになった宮へ差し上げていたのをちょうどその時中宮の御前から出て来た大将が何心なく横目に見て、大事な恋人からよこしたものらしい文《ふみ》であるとおかしく思い、ちょっと立ちどまっていた。宮は引きあけて読んでおいでになる、紅の薄様《うすよう》に細かく
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