ではろくなことはできそうにございません」
 などと得意そうに語る。母もうれしそうであった。浮舟の姫君は逃亡というような意外なことを自分が起こして問題になれば、この人たちはどんなにかなしむことであろう。一方の宮はまたどんな深い山へはいろうとも必ずお捜し出しになり、しまいには自分もあの方も社会的に葬られる結果になるであろう、自分の手へ来て隠れるようにとは今朝《けさ》も手紙に書いておよこしになったのであるが、どうすればよいのであろうと思い、気分までも悪くなり横になっていた。
「どうしてそんなに平生と違って顔色が悪く、痩《や》せておしまいになったのだろう」
 と母は浮舟を見て驚いていた。
「このごろずっとそんなふうでいらっしゃいまして、物は召し上がりませんし、お苦しそうにばかりしていらっしゃるのでございます」
 乳母はこう告げた。
「怪しいことね。物怪《もののけ》か何かが憑《つ》いたのだろうか。あるいはと思うこともあるけれど、石山|詣《まい》りの時は穢《けが》れで延びたのだし」
 と言われている時片腹痛さで伏し目になっている姫君だった。
 夜になって月が明るく出た。川の上の有明《ありあけ》月夜
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