のなのですが」
などと薫は言っていた。
新築させた邸《やしき》へ浮舟を入れようと思っていたが、そのために家までも作ったと派手《はで》な取り沙汰《ざた》などをされるのは苦しいことであると薫は思い、ひそかに襖子《からかみ》を張らせなどすることを、人もあろうに内記の妻の親である大蔵の五位へ心安いままに命じたのであったから、時方《ときかた》から話は皆兵部卿の宮のほうへ聞こえてしまった。
「絵師も大将の御随身の中にいますものとか、御従属しております人の中とかからお選びになりまして、さすがに歴としたお邸《やしき》の準備を宇治の方のためにさせておいでになります」
と申すのをお聞きになって、いっそう宮はおあせりになり、御自身の乳母《めのと》が遠国の長官の妻になって良人《おっと》の任地へ行ってしまうその家が下京のほうにあるのをお知りになり、
「自分が世間へ知らせずに隠して置きたい女のためにしばらくその家を借りたい」
と御相談になると、女とはどんな人なのであろうと乳母は思ったが、熱心に仰せられることであったから、お否み申し上げるのはもったいないように思われて承諾した。この家がお見つかりになったため
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