烏帽子直衣《えぼしのうし》姿ではいって来た時から、洗練された気品はあたりを圧した。姫君は罪を犯した身で薫を迎えることが苦しく天地に恥じられて恐ろしいにもかかわらず、不条理な恋を持って接近しておいでになった人のことが忘れられない心もあって、またこの人に貞操な女らしくして逢うことが非常に情けなかった。自分は今まで愛していた人への情けも皆捨てるほかはない気がすると宮はお語りになったのであったが、そのお言葉どおりに御病気に託してどちらの夫人の所へもおいでになることはなくて、おそばで始終修法ばかりを行なわせておいでになるというそうであるのに、自分が大将と夫婦らしくしていたということをお聞きになればどんなふうにお憎みになるであろうと思われるのも苦しかった。薫はまた別箇の存在と見えて優美なふうで、ながく来られなかった言いわけなどをするにも多くの言葉は用いない。恋しい悲しいとひたひたと迫って言うことはないが、常に逢いがたい人に持つ恋の苦しさを品よく言う効果は、誇張された多くの言葉がもたらすそれにまさって、心を惹《ひ》く力は強く、女の愛は自然に得られる風格が備わっていた、恋の相手に艶《えん》な趣を覚えし
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