しろい話だね、どういうつもりで、どこの婦人をそうして隠しているのだろう。なんといってもあの人のすることは特色があるね、左大臣などはあの人があまりに宗教に傾き過ぎて、山の寺などに夜さえも泊まることをするのは、身分柄軽率な譏《そし》りを受けることだと非難をしておられると聞いたが、実際は信仰のための微行などというものはできるものではない、やはり昔の恋人の家であるから、それに心が惹《ひ》かれて行くのだと私に言う者もあった。それがまた当を得た解釈ではなかったのだね、愛人を隠してあるなどとは驚くね。君はどう思う。だれよりも自分はまじめな人間であると標榜《ひょうぼう》している人が、そんな常識で想像もできぬようなことを仕組んで愛人をそっと持つなどということは」
 と宮はおかしそうにお言いになった。大内記は右大将の家に古くから使っている家司《けいし》の婿であったから秘密な話も耳にはいるのであろう。宮のお心の中では、どんな策を用いてその薫《かおる》の愛人をあの夕べの女であるか、そうでないかと見きわめたらいいであろう、あの大将がそれほどに大事にしておく人はひととおりな美人ではあるまい、またその女が自分の妻と
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