君をつれて行こうとするのであった。中の君はこれを本意《ほい》ないことに思ったが、とめることはできなかった。あのできごとに心の乱れている女であったから、あまり長く話もせずに去った。
 姫君のための何かの場合に使おうと思い、この人は家をかねて一つ用意させてあった。三条辺でしゃれた作りの家なのであるが、まだまったくはでき上がっていず、行き渡った装飾がされているのでもなかった。
「あなた一人で苦労が尽きない。薄命な自分などは、明日というようなものを頼みにせず早く死んでおればよかったのですよ。自分だけは生まれた家にもふさわしくない地方官の家の中にはいって、一生をしんぼうもしよう、ただあなたをそうした人と同じように扱わせることが忍ばれないことに思われましてね、お姉様をおたよらせしてやったのですが、醜いことがそこで起こればいっそう世間体の恥ずかしいことになります。いやなことですよ。不都合な家でもこの家に隠れていらっしゃい。だれにも知れないようにしてね、私はどんなにでもしてあなたのためによくしてあげますから」
 こう言い置いて常陸の妻は娘のところから帰ろうとした。姫君は泣いて、生きているだけでさえ人迷
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