、あさましさにそれきりものも言われない。
「今日は高官の方がたくさん伺候なすった日で、こんな時にはお遊びに時間をお忘れになって、こちらへおいでになるのがお遅《おそ》くなるのですものね、いつも皆奥様なども寝《やす》んでおしまいになっていますわね。それにしてもどうすればいいことでしょう。あの乳母《ばあや》が気のききませんことね。私はじっとおそばに見ていて、宮様をお引っ張りして来たいようにも思いましたよ」
 などと右近が少将という女房といっしょに姫君へ同情をしている時、御所から人が来て、中宮が今日の夕方からお胸を苦しがっておいであそばしたのが、ただ今急に御容体が重くなった御様子であると、宮へお取り次ぎを頼んだ。
「あやにくな時の御病気ですこと、お気の毒でも申し上げてきましょう」
 と立って行く右近に、少将は、
「もうだめなことを、憎まれ者になって宮様をお威《おど》しするのはおよしなさい」
 と言った。
「まだそんなことはありませんよ」
 このささやき合いを夫人は聞いていて、なんたるお悪癖であろう、少し賢い人は自分をまであさましく思ってしまうであろうと歎息をしていた。
 右近は西北の座敷へ行き
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