をお姉様に持っておいでになったことがわかると、いっそうお死にになったのが残念でね」
 と中の君は言った。
「大将様はあんなに、例《ためし》もないほど婿君として帝《みかど》がお大事にあそばすために、御|驕慢《きょうまん》になってそんなふうなこともお言いになるのではありますまいか。大姫君が生きておいでになっても、そのために宮様との御結婚をお断わりあそばすとも思われませんもの」
「まあお姉様だって、だれもが逢《あ》っているような悲しい目は見ていらっしゃるだろうからね。かえって先にお死にになってよかったかもしれない。すべてを見てしまわないためによい想像ばかりをしておられるようなものだと思うけれどね。でもね大将はどういう宿縁があるのか怪しいほど昔の恋を忘れずにおいでになってね、お父様の後世《ごせ》のことまでもよく心配してくだすって仏事などもよく親切に御自身の手でしてくださるのですよ」
 と中の君は、感謝している心を別段誇張もせずに常陸夫人へ語って聞かせた。
「お亡《かく》れになった姫君の代わりにほしいと、物の数でもございません方のことさえも宇治の弁の尼からお言わせになりましてございます。私はそん
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