いう腹で、女にもでき上がっていない子供を細君にしたのですよ。そんなことをこちらなどで噂《うわさ》する者はありませんがね、守の邸《やしき》に知った人があって私はその事情を知っているのですよ」
とほかの一人にささやいている女房があった。常陸の妻が聞いているとは知らずにこんなことの言われているのにもその人ははっとして、少将を相当な風采《ふうさい》をした男と認めた以前の自身すらも、残念に腹だたしく、あの男と結婚をさせれば姫君の一生は平凡なものになってしまうのであったと思い、あれ以来軽蔑はしているのであったが、いっそうその感を深くする常陸の妻であった。若君が這《は》い出して御簾《みす》の端からのぞいているのに宮はお気づきになって、またもどっておいでになった。
「中宮様の御気分がよろしいようだったら早く退出して来よう。まだお苦しいふうな御容体だったら今夜は宿直《とのい》しよう。この人がいては一晩でもほかにいる間は気がかりで苦しくてならない」
こう女房へお言いになりながらしばらく若君をお慰めになってから出てお行きになる宮の御様子は見ても見ても飽くことのないほどお美しかったのが、行っておしまいにな
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