いないことを思うと、これからは姫君の良人を謙遜《けんそん》して選ぶ必要はない、自重心を持たなければならぬと一晩じゅういろいろな空想を常陸夫人はし続けた。
朝おそくなってから宮はお起きになり、病身になっておいでになる中宮《ちゅうぐう》がまた少しお悪いとお聞きになって御所へまいろうとされ、衣服を改めなどしておいでになった。心が惹《ひ》かれてまた常陸夫人がのぞくと、正しく装束をされたお姿はまた似るものもないほど気高くお美しい宮は、若君へお心が残るようにいろいろとあやしておいでになる。粥《かゆ》、強飯《こわいい》などを召し上がり、この西の対からお車に召されるのであった。今朝《けさ》からまいっていて控え所のほうにいた人々はこの時になってお縁側へ出て来て何かと御|挨拶《あいさつ》を申し上げたりしている中に、気どったふうを見せながら平凡でおもしろみのない顔をし、直衣《のうし》に太刀《たち》を佩《は》いているのがあった。宮のおいでになる前では目にもとまらぬ男であったが、
「あれがあの常陸守の婿の少将じゃありませんか。初めはあの姫君の婿にと定められていたのに、守《かみ》の娘をもらってかばってもらおうと
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