にまでなったから、静かに立って歩み去った。姫君の所へ行ってみると、可憐《かれん》な美しい姿でその人はすわっていた。夫人はなんとなく安心を覚えた。どんな運命がここに現われてきても、この人がだれよりも不遇で置かれるはずはないと思われるのである。姫君の乳母《めのと》を相手に夫人は、
「いやなものは人の心だね。私は同じようにだれも娘と思って世話をしているものの、この方と縁を結ぶ人には命までも譲りたい気でいるのだのに、父親がないと聞いて、軽蔑《けいべつ》をして、まだ年のゆかない、でき上がっていない子などを、この方をさしおいて娶《めと》るというようなことができるものなんだねえ。そんな人をまた婿にすることなどは絶対にもう私はいやだけれど、守が名誉に思って大騒ぎしているのを見ると、それがちょうど似合いの婿《むこ》舅《しゅうと》だと思われるよ。私はいっさい口を入れないつもりよ。私はこの家でない所へ当分行っていたい」
こう歎きながら言うのであった。乳母も腹がたってならない。姫君が軽蔑されたと思うからである。
「いいのですよ奥様。これも結局お姫様の御運が強かったから、あの人と結婚をなさらないで済むことにな
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