えるほうがいいのであろうかなどと、結局そのほうへ心が傾いたというのも、仲人が守へ言ったと同じようなよいことずくめの話に、まして女の人はやすやすと欺《あざむ》かれたからであるかもしれぬ。もう明日《あす》か明後日《あさって》になったかと思うと、心が落ち着かず忙がしく、どこにもひとところにじっとしておられず夫人がいらいらとしている所へ、外から守がはいって来て、長々と雄弁に次のようなことを言った。
「私を除《の》け者にしておいて、私の大事な娘の求婚者を自分の子のほうへ取ろうとあなたはしたのか、ばかばかしく幼稚な話だ。あなたのりっぱな娘さんを入り用だと思う公達《きんだち》はなさそうだね。卑賤な私|風情《ふぜい》の女の子をぜひ妻にと言ってくださるので、うまく計画をしたつもりだろうが、それは初めの精神と違うと言ってほかの縁談を定《き》めようとされていたから、それなら思召しどおりこちらの子のほうにと言って私は定めてしまった」
 何の思いやりもなく守はこの奇怪な報告を得意になって妻へした。夫人はあきれてものも言われない。そんなことであったかと思うと、人生の情けなさが一時に胸へせき上がってきて涙が落ちそう
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