れしくなって、妹にこの事情も語らず、夫人のほうへも寄って行かずに帰り、仲人は守《かみ》の言ったことを、幸福そのものをもたらしたようにして少将へ報告した。少将は心に少し田舎者《いなかもの》らしいことを言うとは思ったが、うれしくないこともなさそうな表情をして聞いていた。大臣になる運動費でも出そうと言ったことだけはあまりな妄想《もうそう》であるとおかしかった。
「それについて奥さんのほうへは話して来たかね。奥さんの考えていた人と別な人と結婚をしようというのだからね。私の利己主義からそうなったなどと中傷をする人もあるだろうから、このことはどんなものだかね」
少し躊躇《ちゅうちょ》するふうを見せるのを仲人は皆まで言わせずに、
「そんな御心配は無用です。奥さんだって今度のお嬢さんを大事にしておられるのですからね。ただいちばん年長の娘さんで、婚期も過ぎそうになっている点で、前の方のことを心配して、そちらへ話をお取り次ぎになっただけのものですよ」
と言うのであった。今まではその人のことを特別に大事にしている娘であると言っていた同じ男の口から、にわかにこう言われるのを信じてよいかどうかわからぬとは少
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