あの方だけは女に取り入ろうと気どることなどはなさらない。下情にもよく通じておられます。領地は何か所もおありになるのですよ。現在の御収入は少ないようでも、貴族は家についた勢いというものがあるのですから、ただの人の物持ちになっていばっているのなどその比じゃありませんとも。来年は必ず四位《しい》におなりになるでしょう。この次の蔵人頭《くろうどのかみ》はまちがいなくあの方にあたると帝《みかど》が御自身でお約束になったんですよ。何の欠け目もない青年|朝臣《あそん》でいて妻をまだ定《き》めないのはどうしたことだ、しかるべく選定して後見の舅《しゅうと》を定めるがいい。自分がいる以上高級官吏には今日明日にでも上げてやろうとそう帝は仰せになるのですよ。だれよりもいちばん帝の御信任を受けていられるのはあの少将さんなのですよ。実際御性格だってすぐれた重々しい人ですよ。理想的な婿君ではありませんか。幸いあちらからお話があるのですから、この場合にぐずぐずしていずに話をお定めになるのが上策でしょう。実際あちらには縁談が降るほどあるのですからね。あなたの躊躇《ちゅうちょ》して渋っておられるのが知れましたら、ほかの口
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