くお話し申し上げることもいたしまして、始終おそばにまいっていたい心になりましたけれど、家《うち》のほうではわんぱくな子供たちのおおぜいが、私のおりませんのを寂しがって騒いでいることかと思いますと、さすがに気が落ち着きません。ああした階級の家へはいってしまいましたことで、私自身も情けなく思うことが多いのでございますから、この方だけはあなた様の思召《おぼしめ》しにお任せいたしますから、どうとも将来のことをお定《き》めくださいまし」
この常陸夫人の頼みを聞いて、中の君も、この人の言うとおり妹は地方官級の人の妻などにさせたくないと思っていた。姫君は容貌《ようぼう》といい、性質といい憎むことのできぬ可憐《かれん》な人であった。ひどく恥ずかしがるふうも見せず、感じよく少女らしくはあるが機智《きち》の影が見えなくはない。夫人の居室に侍している女房たちに見られぬように、上手《じょうず》に顔の隠れるようにしてすわっていた。ものの言いようなども総角《あげまき》の姫君に怪しいまでよく似ているのであった。あの人型《ひとがた》がほしいと言った人に与えたいとその人のことが中の君の心に浮かんだちょうどその時に、右大将の入来を人が知らせに来た。居室にいた女房たちはいつものように几帳《きちょう》の垂《た》れ絹を引き直しなどして用意をした。姫君の母は、
「では私ものぞかせていただきましょう。少しお見かけしただけの人が、たいへんにおほめしていましたけれど、こちらの宮様のお姿とは比較すべきではございますまい」
と言っていたが、女房たちは、
「さあ、どうでしょう。どちらがおすぐれになっていらっしゃるか私たちにはきめられませんわね」
こんなことを言う。中の君が、
「二人で向かい合っていらっしゃるのを見た時、宮はうるおいのない醜《わる》いお顔のようにお見えになった。別々に見れば優劣はない方がたのように見えるのだけれど、美しい人というものは一方の美をそこねるものだから困るのね」
と言うと、人々は笑って、
「けれど宮様だけはおそこなわれにならないでしょう。どんな方だって宮様にお勝ちになる美貌《びぼう》を持っておいでになるはずはございませんもの」
などと言うころ、客は今下車するのであるらしく、前駆の人払いの声がやかましく立てられていたが、急には薫《かおる》の姿がここへ現われては来なかった。
待ち遠しく人々
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