いでになったのであるが、夫人のことがお気づかわしいために、まだ宴の終わらぬうちに急いで二条の院へお帰りになったのを、左大臣家の新夫人は不満足に思い、ねたましがった。同じほどに愛されているのであるが権家の娘であることに驕《おご》っている心からそう思われたのであろう。
 ようやくその夜明けに二条の院の夫人は男児を生んだ。宮も非常にお喜びになった。右大将も昇任の悦《よろこ》びと同時にこの報を得ることのできたのをうれしく思った。昨夜の宴に出ていただいたお礼を述べに来るのとともに、御男子出産の喜びを申しに、薫は家へ帰るとすぐに二条の院へ来たのであった。
 兵部卿の宮がそのままずっと二条の院におられたから、お喜びを申しに伺候しない人もなかった。産養《うぶやしない》の三日の夜は父宮のお催しで、五日には右大将から産養を奉った。屯食《とんじき》五十具、碁手《ごて》の銭、椀飯《おうばん》などという定まったものはその例に従い、産婦の夫人へ料理の重ね箱三十、嬰児《えいじ》の服を五枚重ねにしたもの、襁褓《むつき》などに目だたぬ華奢《かしゃ》の尽くされてあるのも、よく見ればわかるのであった。父宮へも浅香木の折敷《
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