》の横から脇息《きょうそく》によりかかって少し姿を現わしているのが非常に可憐《かれん》に見えた。
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「あきはつる野べのけしきもしの薄《すすき》ほのめく風につけてこそ知れ
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『わが身一つの』(おほかたのわが身一つのうきからになべての世をも恨みつるかな)」
と言ううちに涙ぐまれてくるのも、さすがに恥ずかしく扇で紛らしているその気分も愛すべきであると宮はお思われになるのであるが、こんな人であるからほかの男も忘れがたく思うのであろうと疑いをお持ちになるのが夫人の身に恨めしいことに相違ない。白菊がまだよく紫に色を変えないで、いろいろ繕われてあるのはことに移ろい方のおそい中にどうしたのか一本だけきれいに紫になっているのを宮はお折らせになり「花中偏愛菊《はなのなかにひとへにきくをあいす》」と誦《ず》しておいでになったが、
「某《なにがし》親王がこの花を愛しておいでになった夕方ですよ、天人が飛んで来て琵琶《びわ》の手を教えたというのはね。何事もあさはかになって天人の心を動かすような音楽というものはもはや地上からなくなってしまったのは情けない」
とお
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