#「こだに」に傍点]の蔓《つる》などを少し引きちぎらせて中の君への贈り物にするらしく薫は従者に持たせた。
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やどり木と思ひ出《い》でずば木のもとの旅寝もいかに寂しからまし
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と口ずさんでいるのを聞いて、弁が、
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荒れはつる朽ち木のもとを宿り木と思ひおきけるほどの悲しさ
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という。あくまで老いた女らしい尼であるが、趣味を知らなくないことで悪い気持ちは中納言にしなかった。
二条の院へ宿り木の紅葉を薫の贈ったのは、ちょうど宮が来ておいでになる時であった。
「三条の宮から」
と言って使いが何心もなく持って来たのを、夫人はいつものとおり自分の困るようなことの書かれてある手紙が添っているのではないかと気にしていたが隠しうるものでもなかった。宮が、
「美しい蔦だね」
と意味ありげにお言いになって、お手もとへ取り寄せて御覧になるのであったが、手紙には、
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このごろはどんな御様子でおられますか。山里へ行ってまいりまして、さらにまた峰の朝霧に悲しみを引き出される結果を見ました
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