歎いていたと申します。それがまた主人が常陸介《ひたちのすけ》になっていっしょに東《あずま》へまいりましたが、それきり消息をだれも聞かなかったのでございます。この春常陸介が上ってまいりまして、中将が中の君様の所へ訪《たず》ねてまいりましたと申すことはちょっと聞きましてございます。姫君は二十くらいになっていらっしゃるのでしょう。非常に美しい方におなりになったのを拝見する悲しさなどを、まだ中将さんの若いころ小説のようにして書いたりしたこともございました」
 すべてを聞いた薫は、それではほんとうのことらしい。その人を見たいという心が起こった。
「昔の姫君に少しでも似た人があれば遠い国へでも尋ねて行きたい心のある私なのだから、子として宮がお数えにならなかったとしても結局妹さんであることは違いのないことなのですから、私のこの心持ちをわざわざ正面から伝えるようにではなく、こう言っていたとだけを、何かの手紙が来たついでにでも言っておいてください」
 とだけ薫は頼んだ。
「お母さんは八の宮の奥様の姪《めい》にあたる人なのでございます。私とも血の続いた人なのですが、昔は双方とも遠い国に住んでいまして、たび
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