るのにも少し道理はあるとかわいそうに思われる薫が、
「これくらいのことは道徳に触れたことでも何でもありませんよ。これほどにしてお話をした昔を思い出してください。亡《な》くなられた女王《にょおう》さんのお許しもあった私が、近づいたからといって、奇怪なことのように見ていらっしゃるのが恨めしい。好色漢がするような無礼な心を持つ私でないと安心していらっしゃい」
 と言い、激情は見せずゆるやかなふうにして、もう幾月か後悔の日ばかりが続き、苦しいまでになっていく恋の悩みを、初めからこまごまと述べ続け、反省して去ろうとする様子も見せないため、中の君はどうしてよいかもわからず、悲しいという言葉では全部が現わせないほど悲しんでいた。知らない他人よりもかえって恥ずかしく、いとわしくて、泣き出したのを見て、薫は、
「どうしたのですか、あなたは、少女らしい」
 こう非難をしながらも、非常に可憐《かれん》でいたいたしいふうのこの人に、自身を衛《まも》る隙《すき》のないところと、豊かな貴女《きじょ》らしさがあって、あの昔見た夜よりもはるかに完成された美の覚えられることによって、自身のしたことであるが、これを他の人
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