改造後の寝殿はまだできたばかりで御簾《みす》も皆は掛けてない。格子が皆おろしてある中の二間の間の襖子《からかみ》の穴から薫はのぞいていた。堅い上着が音をたてるのでそれは脱いで、直衣《のうし》と指貫《さしぬき》だけの姿になっていた。車の人はすぐにもおりて来ない、弁の尼の所へ人をやって、りっぱな客の来ていられる様子であるがどなたかというようなことを聞いているらしい。薫は車の主を問わせた時から山荘の人々に、自分が来ているとは決して言うなと口どめをまずしておいたので皆心得ていて、
「早くお降りなさいまし。お客様はおいでになりますが別のお座敷においでになります」
と言わせた。
若い女房が一人車からおりて主人のために簾《すだれ》を掲げていた。警固の物々しい騎士たちに比べてこの女房は物馴《ものな》れた都風をしていた。年の行った女房がもう一人降りて来て、
「お早く」
と言う。
「何だか晴れがましい気がして」
と言う声はほのかであったが品よく聞こえた。
「またそれをおっしゃいます。こちらはこの前もお座敷が皆しまっていたではございませんか。あすこに人が見ねばどこに見る人がございましょう」
と女房
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