っしゃる間は、そんな無茶なことをしようとする女もなかろうと思うと、恨めしいながらもなお頼みにされますよ」
 と姫君が言うと、
「先に死ぬことなどをお思いになるのはひどいお姉様。悲しいではありませんか」
 中の君はこう言って、いよいよ夜着の中へ深く顔を隠してしまった。
「自分の命が自分の思うままにはならないのですからね。私はあの時すぐにお父様のあとを追って行きたかったのだけれど、まだこうして生きているのですからね。明日はもう自分と関係のない人生になるかもしれないのに、やはりあとのことで心を苦しめていますのも、だれのために私が尽くしたいと思うからでしょう」
 と大姫君は灯を近くへ寄せさせて宮のお手紙を読んだ。いつものようにこまやかな心が書かれ、

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ながむるは同じ雲井をいかなればおぼつかなさを添ふる時雨《しぐれ》ぞ
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 とある。袖《そで》を涙で濡《ぬ》らすというようなことがあの方にあるのであろうか、男のだれもが言う言葉ではないかと見ながらも怨《うら》めしさはまさっていくばかりであった。
 世にもまれな美男でいらせられる方が、より多く人に愛され
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