うのを聞いて病女王の心はいっそう悲しくなった。
「お亡《かく》れになってから、どうかして夢の中ででもお逢《あ》いしたいと私はいつも思っているのに少しも出ておいでにならないのですよ」
と言ったあとで、二人は非常に泣いた。このごろは明け暮れ自分が思っているのであるから、ふと出ておいでになることもあったのであろう、どうしても父君のおそばへ行きたい、人の妻にもならず、子なども持たない清い身を持ってあの世へ行きたい、と大姫君は来世のことまでも考えていた。支那《しな》の昔にあったという反魂香《はんごんこう》も、恋しい父君のためにほしいとあこがれていた。暗くなってしまったころに兵部卿の宮のお使いが来た。こうした一瞬間は二女王の物思いも休んだはずである。中の君はすぐに読もうともしなかった。
「やっぱりおとなしくおおような態度を見せてお返事を書いておあげなさい。私がこのまま亡くなれば、今以上にあなたは心細い境遇になって、どんな人の媒介役を女房が勤めようとするかもしれないのですからね。私はそれが気がかりで、心の残る気もしますよ。でもこの方が時々でも手紙を送っておいでになるくらいの関心をあなたに持っていら
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