う》を辞する意味で使いのおもだった人は帰ってしまった。下の侍の一人を呼びとめて姫君の歌が渡された。
[#ここから2字下げ]
隔てなき心ばかりは通ふとも馴《な》れし袖とはかけじとぞ思ふ
[#ここで字下げ終わり]
心のかき乱されていたあの夜の名残《なごり》で、思っただけの平凡な歌より詠《よ》まれなかったのであろうと受け取った薫は哀れに思った。
兵部卿の宮はその夜宮中へおいでになったのであるが、新婦の宇治へ行くことが非常な難事にお思われになって、人知れず心を苦しめておいでになる時に、中宮《ちゅうぐう》が、
「どんなに言ってもあなたはいつまでも一人でおいでになるものだから、このごろは私の耳にもあなたの浮いた話が少しずつはいってくるようになりましたよ。それはよくないことですよ。風流好きとか、何々趣味の人とか人に違った評判は立てられないほうがいいのですよ。お上《かみ》もあなたのことを御心配しておいでになります」
と仰せになって、私邸に行っておいでがちな点で御忠告をあそばしたために、兵部卿《ひょうぶきょう》の宮は時が時であったから苦しくお思いになって、桐壺《きりつぼ》の宿直《とのい》所へお
前へ
次へ
全126ページ中57ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング