乱れていた。

[#ここから2字下げ]
山姫の染むる心はわかねども移らふかたや深きなるらん
[#ここで字下げ終わり]

 事実に触れるでもなく書かれてある総角《あげまき》の姫君の字の美しさに、やはり自分はこの人を忘れ果てることはできないであろうと薫は思った。自分の半身のような妹であるからと中の君を薦《すす》めるふうはたびたび見せられたのであるのに、自分がそれに従わないために謀《はか》ったものに違いない、その苦心をむだにした今になって、ただ恨めしさから冷淡を装っていれば初めからの願いはいよいよ実現難になるであろう、中に今まで立たせておいた老女にさえ、自分の愛の深さを見失わせることになり、浮いた恋だったとされてしまうのが残念である。何にもせよ一人の人にこれほどまでも心の惹《ひ》かれることになった初めがくやしい、ただはかないこの世を捨ててしまいたいと願っている精神にも矛盾する身になっているではないかと自分でさえ恥ずかしく思われることである、いわんや世間の浮気《うわき》者のように、その恋人の妹にまた恋をし始めるということはできないことであると薫《かおる》は思い明かした。
 次の朝の有明《ありあ
前へ 次へ
全126ページ中39ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング