出すと、
「釈明のお言葉を承りますことはかえって私としては不安です」
と薫は言って、
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「つららとぢ駒《こま》踏みしだく山河《やまかは》を導《しる》べしがてらまづや渡らん
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それが許されましたなら影さえ見ゆる(浅香山影さへ見ゆる山の井の浅くは人をわれ思《も》はなくに)の歌の深い真心に報いられるというものです」
といどむふうを見せた。思わぬ方向に話の転じてきたことから大姫君はやや不快になって返辞らしい返辞もしない。俗界から離れた聖人のふうには見えぬが、現代の若い人たちのように気どったところはなく、落ち着いた気安さのある人らしいと大姫君は薫を見ていた。若い男はそうあるべきであると思うとおりの人のようであった。言葉の引っかかりのできる時々に、ややもすれば薫は自身の恋を語ろうとするのであるが、気づかないふうばかりを相手が作るために気恥ずかしくて、それからは八の宮の御在世になったころの話をまじめにするようになった。
日が暮れたならば雪は空も見えぬまでに高くなるであろうと思う従者たちは、主人の注意を促す咳《せき》払いなどをしだしたために、帰
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