年長者らしい、母代わりのよい挨拶《あいさつ》がしたいと思うのであったが、その言葉が見つからないままに、
「何とも申し上げることはございません。一つのことをあまり熱心にお話しなさいますものですから、私は戸惑いをして」
と笑ってしまったのもおおようで、美しい感じを相手に受け取らせた。
「あなたの問題として御判断を願っていることではございません。そちらは雪の中を分けてまいりました志だけをお認めになっていただけばよろしいのです。先ほどの話は姉君としてお考えおきください。宮の対象にあそばされる方はまた別の方のようです。御手跡の主の不分明な点についてのお話も少し承ったことがあるのですが、あちらへのお返事はどちらの女王様がなさっていらっしゃいますか」
と薫は尋ねていた。よくも自分が戯れにもお相手になってそののちの手紙を書くことをしなかった、それはたいしたことではないが、こんなことを言われた際に、どれほど恥ずかしいかもしれないからと大姫君は思っていても、返辞はできないで、
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雪深き山の桟道《かけはし》君ならでまたふみ通ふ跡を見ぬかな
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こう書いて
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