た人でない雪はまたまた降りそって積もっていく、うらやましいまでに。
 薫《かおる》は新年になれば事が多くて、行こうとしても急には宇治へ出かけられまいと思って山荘の姫君がたを訪《たず》ねてきた。雪の深く降り積もった日には、まして人並みなものの影すら見がたい家に、美しい風采《ふうさい》の若い高官が身軽に来てくれたことは貴女たちをさえ感激させたのであろう、平生よりも心を配って客の座の設けなどについて大姫君は女房らへ指図《さしず》を下していた。喪の黒漆でない火鉢《ひばち》を、しまいこんだ所から取り出して塵《ちり》を払いなどしながらも、女房は亡き宮がこの客をどのように喜んでお迎えになったかというようなことを姫君に申しているのであった。みずから出て話すことはなお晴れがましいこととして姫君は躊躇《ちゅうちょ》していたが、あまりに思いやりのないように薫のほうでは思うふうであったから、しかたなしに物越しで相手の言葉を聞くことになった。打ち解けたとまではいわれぬが、前の時分よりは少し長く続けた言葉で応答をする様子に、不完全なところのない貴女らしさが見えた。こうした性質の交際だけでは満足ができぬと薫は思い、
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