らねばならないことであろうし、また冷泉院の女一《にょいち》の宮《みや》の御病気もお見舞い申し上げねばならぬことで、かたがた京へ帰らねばならぬ、近いうちにもう一度|紅葉《もみじ》の散らぬ先にお訪ねするということを、薫は宮へ取り次ぎをもって申し上げさせた。
「こんなふうにたびたびお訪ねくださる光栄を得て、山蔭《やまかげ》の家も明るくなってきた気がします」
と宮からの御|挨拶《あいさつ》も伝えられた。
薫は自邸に帰って、弁から得た袋をまず取り出してみるのであった。支那《しな》の浮き織りの綾《あや》でできた袋で、上という字が書かれてあった。細い組み紐《ひも》で口を結んだ端を紙で封じてあるのへ、大納言の名が書かれてある。薫はあけるのも恐ろしい気がした。いろいろな紙に書かれて、たまさか来た女三の宮のお手紙が五、六通あった。そのほかには柏木《かしわぎ》の手で、病はいよいよ重くなり、忍んでお逢《あ》いすることも困難になったこの時に、さらに見たい心の惹《ひ》かれる珍しいことがそちらには添っている、あなたが尼におなりになったということもまた悲しく承っているというようなことを檀紙《だんし》五、六枚に一字
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