かれていますうちに、その人もそこで亡くなりましてから、十年めほどの、違った世界の気がいたしますような京へ上ってまいったのでございますが、こちらの宮様は私の父方の縁故で童女時代に上がっていたことがあるものですから、もうはなやかな所へお勤めもできない姿になっております私は、冷泉《れいぜい》院の女御《にょご》様などの所へ、大納言様の続きでまいってもよろしかったのでございますが、それも恥ずかしくてできませんで、こうして山の中の朽ち木になっております。小侍従はいつごろ亡くなったのでございましょう。若盛りの人として記憶にございます人があらかた故人になっております世の中に、寂しい思いをいたしながら、さすがにまだ死なれずに私はおりました」
 弁が長話をしている間に、この前のように夜が明けはなれてしまった。
「この昔話はいくら聞いても聞きたりないほど聞いていたく思うことですが、だれも聞かない所でまたよく話し合いましょう。侍従といった人は、ほのかな記憶によると、私の五、六歳の時ににわかに胸を苦しがりだして死んだと聞いたようですよ。あなたに逢うことができなかったら、私は肉親を肉親とも知らない罪の深い人間で一
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