すぐれた美貌《びぼう》の主に違いないとお信じになるようになり、非常な興味を宇治の女王たちにお持ちになることになった。
「今後もよくさぐって来て私に知らせてください」
 宮はこうお言いになって、御自身の自由の欠けた尊貴さをいとわしくお思いになるふうまでもお見せになるのを、薫はおかしく思った。
「しかし、そうした危険なことはしないほうがいいですね。この世へ執着を作るべきでないという信念を持っております私が、そうした中へはいって行って、自分ながら抑制できませんようなことになっては、すべての理想がこわれてしまうでしょうから」
「たいそうだね、例のとおりの坊様くさいことを言っている君のその態度がいつまで続くか見たいものだ」
 宮はお笑いになった。
 薫の心は宇治の宮で老女がほのめかした話からまた古い疑問が擡頭《たいとう》していて、人生が悲しく見えてならないこのごろであったから、美しい感じを受けたことにも、ほかから耳にはいってくるすぐれた女性の噂《うわさ》などにも自身は興味をそう持てないのであった。
 十月になって五、六日ごろに薫《かおる》は宇治へ出かけた。
「季節ですから網代《あじろ》の漁をさせ
前へ 次へ
全49ページ中38ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング