から心細かろうと思いやって、宮からその人々へ布施としてお出しになるようにと絹とか、綿とかも多く贈った。
 お籠《こも》りを済ませて寺からお帰りになろうとされる日であったから、ごいっしょにこもった法師たちへ、綿、絹、袈裟《けさ》、衣服などをだれにも一つずつは分かたれるようにして、全体へ宮からお下賜になった。
 宿直《とのい》の侍は薫の脱いで行った艶《えん》な狩衣《かりぎぬ》、高級品の白綾《しらあや》の衣服などの、なよなよとして美しい香のするのを着たが、自身だけは作り変えることができないのであるから似合わしくない香が放散するのを、だれからも怪しまれるので迷惑をしていた。着物のために不行儀もできず、人の驚異とする高いにおいをなくしたいと思ったが、すすぐことのできないのに苦しんでいるのも滑稽《こっけい》であった。
 薫は姫君の返事の感じよく若々しく書かれたのを見てうれしく思った。
 宇治では寺からお帰りになった宮へ、女房たちが薫から手紙の送られたことを申し上げてそれをお目にかけた。
「これは求婚者扱いに冷淡になどする性質の相手ではないよ。そんなふうを見せてはかえってこちらの恥になるよ。普通の若者とは違ったすぐれた人格者だから、自分がいなくなったらと、こんなことをただ一言でも言っておけば遺族のために必ず尽くしてくれる心だと私は見ている」
 などと宮はお言いになった。
 宮から山寺の客に過ぎた見舞いの品々の贈られた好意を感謝するというお手紙をいただいたので、また宇治へ御訪問をしようと思った薫は、匂宮《におうみや》がああしたような、人に忘られた所にいる佳人を発見するのはおもしろいことであろう、予期以上に接近して心の惹《ひ》かれる恋がしてみたいと、そんな空想をしておいでになることを思い、宇治の女王《にょおう》たちの話を、やや誇張も加えてお告げすることによって、宮のお心を煽動してみようと思い、閑暇《ひま》な日の夕方に兵部卿《ひょうぶきょう》の宮をお訪《たず》ねしに行った。例のとおりにいろいろな話をしたあとで、薫は宇治の宮のことを語り出した。霧の夜明けに隙見《すきみ》したことをくわしく説明するのには宮も興味を覚えておいでになった。理想的な姫君だったと、薫はおおげさに技巧を用いて宇治の女王の美を語り続けるのであった。
「その女王のお返事を、なぜ私に見せてくれなかったのですか。私だったら親
前へ 次へ
全25ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
与謝野 晶子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング