嫉妬《しっと》も憎しみも見えないのであるが、双方の女房の中には争いを起こす者があったりして、中将が母に言ったことは、兄の直覚で真実を予言したものであったと思われた。尚侍《ないしのかみ》も、こんな問題が続いて起こる果てはどうなることであろう、娘の立場が不利になっていくのは疑いないことである、院の御愛情は保てても、長く侍しておられる人たちから、不快な存在のように新女御が見られることになっては見苦しいと思っていた。
帝《みかど》も院へ姫君を奉ったことで御不快がっておいでになり、たびたびその仰せがあるということを告げる人があったために、尚侍は申しわけなく思って、二女を公式の女官にして宮中へ差し上げることにきめて、自身の尚侍の職を譲った。尚侍の辞任と新任命は官で重大なこととして取り扱われるのであったから、ずっと以前から玉鬘《たまかずら》には辞意があったのに許されなかったところへ、娘へ譲りたいと申し出たのを、帝は御|伯父《おじ》であった大臣の功労を思召す御心《みこころ》から、古い昔に例のあったことをお思いになって、大臣の未亡人の願いをお納《い》れになり、故太政大臣の女《じょ》は新尚侍に任命された
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