ことまでもまた恨めしげに仰せられて、
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今ではいっそう年もとり、光の淡《うす》い身の上になっていて取柄《とりえ》はないでしょうが、安心のできる親代わりとして私にください。
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 お手紙にはこんなふうなお言葉もあるのであったから、これはどうであろう、自分が前生の宿縁で結婚をしたあとでお目にかかったのを飽きたらず思召《おぼしめ》したことが、恥ずかしくもったいないことだったのであるから、お詫《わ》びに代えようかなどとも思って、なお尚侍は迷っていた。美人であるという評判があって恋をする人たちも多かった。右大臣家の蔵人《くろうど》少将とか言われている子息は、三条の夫人の子で、近い兄たちよりも先に役も進み大事がられている子で、性質も善良なできのよい人が熱心な求婚者になっていた。父母のどちらから言っても近い間柄であったから、右大臣家の息子《むすこ》たちの遊びに来る時はあまり隔てのない取り扱いをこの家ではしているのであって、女房たちにも懇意な者ができ、意志を通じるのに便宜があるところから、夜昼この家に来ていて、うるさい気もしながら心苦しい求婚者とは尚侍も見て
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