見せ方があると、妹君をそれにあてて玉鬘《たまかずら》夫人は思っているのである。しかし院参を阻止しようとするような態度はきわめて不愉快であるとしていた。どれほどりっぱな人であっても、普通人には絶対に与えられぬと父である関白も思っていた娘なのであるから、院参をさせることすら未来の光明のない点で尚侍《ないしのかみ》は寂しく思っていたところへ、少将のこの手紙が来て女房たちはあわれがっていた。中将の君の返事、

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今日ぞ知る空をながむるけしきにて花に心を移しけりとも
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「まあお気の毒な、ただ言葉の遊戯にしてしまうことになるではありませんか」
 などと横から言う人もあったが、中将の君はうるさがって書き変えなかった。
 四月の九日に尚侍の長女は院の後宮へはいることになった。右大臣は車とか、前駆をする人たちとかを数多くつかわした。雲井《くもい》の雁《かり》夫人は姉の尚侍をうらめしくは思っているが、今まではそれほど親密に手紙も書きかわさなかったのに、あの問題があって、たびたび書いて送ることになったのに、それきりまたうとくなってしまうのもよろしくないと思って
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